論文の内容<コスプレの記録>とか

本来“コスチューム・プレー”は、舞台俳優の衣裳の視覚的効果を狙った劇のことを表していて、特に歴史劇や歴史映画といった普段私達が着ることのなくなった服装を着て芝居をすることの呼び名(衣裳劇・時代劇とも云う)として存在していたのだが、現在は「自分の好きな漫画・小説・アニメーション・ゲームの登場人物になる」というただそれだけの自己満足的な行為を楽しむことも含め、“コスチューム・プレイ(略してコスプレと呼ぶ)”と呼ぶようになった。
 実際、漫画等の登場人物意外も含めコスプレをする人は私達が想像している以上に多い。今流行りのメイドカフェ執事カフェなどもコスプレから発展したものであるし、人によっては「あるレストランのホールの制服が可愛いから着てみたい」という理由も本人は無自覚かもしれないがコスプレの一種だと考えられる。また、ゴスロリ(ゴシック・ロリータ)の服装を好んで着用する人達も一般の人から見てしまえばコスプレだと言えるだろう。その一般の人達でさえ、好きなアーティストの影響で似たような格好を真似れば世間に公認されたような形のコスプレになっている。
では何故、人はコスプレをするのか?その魅力ともいえる何かを探るために実際にコスプレというものを体験してみようということになる。
<コスプレ・イベント潜入調査レポート>
まずは参加可能なイベントを探すことから始める。計画が夏前だったため他の授業との兼ね合いも考え、夏休み終盤の九月頃のイベントに絞られる。これを元に調べたところ、都内だけでも一ヶ月のうちに四〜五回あることが判明する。その中で“場所が近く、それなりに規模がある大きな会場”を条件にしたところ、九月二十四日の日曜日に後楽園遊園地で行われるイベントに決まった。
 次にコスプレをする作品を決める。漫画・小説・アニメーション・ゲームの中から選んでいくわけだが、どの作品を見ていっても奇抜な衣裳が多い為、制作不可能なものが出てくる。例え制作可能だったとしてもあまりにも印象が薄くなるようなものでは面白くない。ある程度、目立つ衣裳の作品が好ましい。また、「何となくそれっぽくなったのでは?」という中途半端なものになるのは絶対に避けたいと考える。できるだけ完成度の高いものに仕上げ、周囲の目が集まることを目指す。ある程度目立ち、尚且つ制作可能な範囲内の衣裳であって誰もが知っていて登場人物の人数が多い作品。その条件を満たすものとしてゲームの「ストリート・ファイター」シリーズが候補として出されたが、女性の露出の程度が激しかったため問題視され却下となる。次の候補として同じくゲームの「ファイナル・ファンタジー」シリーズと、漫画の「るろうに剣心」が挙げられる。「ファイナル・ファンタジー」シリーズの場合は衣裳の構造が単純のものと複雑怪奇なものがあり、単純な衣裳を持つ登場人物だけを選択していった場合いくらシリーズものだからといってもまったく統一性が取れなくなってしまう恐れがあったため却下となった。残る「るろうに剣心」の場合は、少年漫画で分かりやすく幅広い読者がいて知っている人も多く、また丁度その時期にテレビゲームソフトの発売と完全版コミックスの販売が重なっていたため旬な作品でもあった。それに登場人物の数が多く、衣裳に関しても時代物の作品内容で和服なので都合が付けやすいし、改造や一から作るにしても扱いやすく刀などの小物も揃えやすいという利点が多かったため、この作品に決定する。
 作品内に登場する人物と今回コスプレを行う人物の特徴を考慮した上で、誰がどの人物のコスプレをするかを決めていく。作品内の人物の性格・体格・顔立ち・雰囲気などバランスを考慮しつつ組み合わせを考えていくが、生きた人間である私達がイラストのような登場人物になりきるのは限界があるので、多少の妥協は必要だろう。まず、第一に配役の目安となるのは身長。長身の人物に背の低い人をあてるなどすると途端にバランスが崩れるのでなるべくここは忠実に考えていくところであるだろう。顔立ちに関してはメイクの仕方、髪型の作り方次第で凡その感じは掴めるはずだ。この二つのことに気を付けた上で、最も重要な全体の雰囲気を見ていけば、誰がどの人物をやれば良いのかが見えてくる。今回は大所帯であったためと、コンテストに出場するということを考え立候補ではなく周囲の推薦も含め客観的考えていくことにした。が、この作品自体を知らない人が何人かいたので始めのうちは知っている人達だけで話し合いある程度配役を提案してからの作業となった。大抵、個人でコスプレしていく場合は「自分のやりたい人物」で決めていくのだが、それが本人に似合っているかいないか、雰囲気があるかないかについては賛否両論である。どちらにせよ、本人の自己満足の要素が強く反映されているため本人も会場にいる人達もあまり気にしていないのが現実である。
 イベント会場でコスプレを行う場合に限らず、多少なりとも“オタク”といわれるある種その分野において異常なまでの知識量を誇る集団の輪の中に入っていくためにはある程度の作品内容の把握が必要であると考えたため、「るろうに剣心」の漫画を実際に読んでいく作業が必要不可欠となった。また、この作品に関しては数年前にアニメーション化されていたのでDVDを鑑賞することもできた。映像や漫画を見ることによって自らがやる登場人物の口癖・見癖などに特徴が多く見られる場合はそれらを把握しておくとコスプレという世界に入りやすくなる。その作品を元々知っていて好きな人にとっても、知らないで初めて読む人にとってもこの作業が最も楽しめる作業ではなかっただろうか?こうした“楽しみ”の延長線上に“コスチューム・プレイ”は位置している。いわば、連載が終わってしまった好きな作品をもっと自分たちで楽しみたいがための行為とも考えられる。
 作品が決まったところで、イベント当日に向けて衣裳を準備しなくてはならない。